井上寅雄農園代表、井上隆太朗が農業業界にかける思いとは?
自然豊かな長野県佐久市で、祖父の思いを受け継ぎイチゴ栽培をしながら、
農業の課題解決サービスの立ち上げ、農業に関する動画おまとめサイトの運営など様々な角度から現在の農業業界の在り方を変えようとする一人の経営者がいる。
「井上寅雄農園」代表の井上隆太朗さんだ。
「小さな頃から祖父の農業を継ぐ事を決めていた」という井上さん。
なぜ、高校卒業時の18歳ですぐに農業を継がずに、28歳となった今
「井上寅雄農園」を創業したのでしょうか?
Verkuijlen Fruit & Vegetablesに勤務し、イチゴ栽培について深く学ぶ。
長野県が行なっている「信州アクセラレーションプログラム事業」の第3期生にも選ばれている。
井上寅雄農園について
「井上寅雄農園」を作った理由
元々、私の祖父母がリンゴ農家でした。
祖父は25歳からリンゴ栽培をはじめ、
私が物心ついた時には地元でも有名なくらい美味しいリンゴを作っていました。
祖父の口癖は「ウチのリンゴが一番うまい!」。
私はそんな祖父が作るリンゴを毎日おやつがわりに食べていたんです。
そうしたらいつの間にか、
「こんな美味しいリンゴを作れるようになりたい!」
と思うようになり、それからはずっと農家を継ぐ事を意識していました。
そんな長年の目標を実現する形で、井上寅雄農園を起業しました。
「井上寅雄農園」の名前の由来
私の人生に影響を与えてくれた祖父の名前を借りる形で「井上寅雄農園」にしました。
「井上寅雄農園」の最終的な目標
井上寅雄農園には主に3つの事業があります。
・イチゴ農園
・ファームラン
・アグティー
この3つの事業を活かして、農業業界にDXを起こす。
web版の農協さんみたいな事ができるといいですね。
詳しく説明すると、
「井上寅雄農園」で農業生産を実際に行ってみて農業の課題を見つける
その課題を「アグティー」で相談して解決する
その課題解決法を「ファームラン」に蓄積して、同じ課題を持っている人が見れるようにする
その循環をインプットして経営に生かす。
それ以外にも農産物の販売であったりもやっていければと思っています。
農業を始めた人が、ファームランで学び、わからない事はアグティーで相談し、販売までできる。
そうすると誰がどこでもいつでも農業を行う事ができます。
そこが今の時点で目指しているゴールです。
ただこれは今の時点でのゴールです。今後変わる可能性はありますが、
今、井上寅雄農園で行っている事業をいくつか結びつけるとゴールはそんなところですね。
ーーwebサービスだけでなく、自社でイチゴを作るのにはどんな思いがありますか?
やはり、自分で農業をやってみないと感じ取れない課題がたくさんあります。
webサービスだけだと農業をやっている人へのヒヤリングが必要です。
例えば、
・この作業ってやり方が決まっているけど違うやり方のがいいのでは?
のような事を自分で感じる事ができます。
高校卒業〜起業するまで
高校卒業してすぐに農業を継がなかった理由
これは2つ理由がありますね。
1つは大学に行っていっぱい遊びたかったからです(笑)。
もう1つはすぐに農業をやる自信がなかったんです。
なので、自分で農業以外のものを身につけて、おじいちゃんがやっていた事に何かプラスしたかった気持ちもあります。
その間の高校卒業〜起業までの10年間について
大きく分けると4つの時期がありました。
1.高校卒業後は、大学の農学部に進学
2.大学卒業後に、日本農業経営大学校に進学
ただ祖父の農業を継いでも生計を立てていく事は難しいと感じていたので、
ここでは、ビジネスとしての農業を学ぶために進学しました。
いろいろな人に話を聞く中で、農業の最大のリスクは”天候”である事がわかりました。
これに左右されないために”施設型農業”にたどり着きました。
現在農園で作っているイチゴに興味を持ったのもこの時期ですね。
3.オランダにイチゴ栽培を学ぶために農業留学
オランダは世界でも”施設型農業”の最先端の国です。
そんなオランダの農業を学ぶために農業留学をしました。
オランダに行ってからは驚きの連続でした。
40ha(40ヘクタール)の土地での農業を行っている企業で働いたのですが、
どれだけ少ない土地でたくさんの量を出荷できるかのために全てが効率化されていました。
40haってどのくらいの広さ?
1ha(1ヘクタール)は、25mプール36個分です。
40haだと,
25mプールが1,440個分。
東京ドームが4.7ヘクタールなので、東京ドームの8.5倍。
ディズニーランドが51ヘクタールになります。
4.長野県内の企業で農業事業の立ち上げに参画
イチゴの栽培から販売までのスキームを立案、実践しました。
この時は、イチゴ栽培だけでなく、営業やマネジメントの業務なども行っていました。
ーー4つの中でいつが一番充実していますか?
今振り返ってみるといつでも楽しかったです。
どれが一番か決めるとするならば、2の日本農業経営大学校です。
全寮制の学校で、様々な農家さんに話を聞いたり、
学校で学んだビジネスとしての農業を、学ぶだけで終わらずに、
実践する事もできました。
この時期は、農業経営のコンサル会社でインターンもさせてもらったのですが、
そこはすごく楽しかったし、きつかったですね(笑)。
一番充実していました。
ーー大学を卒業するときは、同世代は就職していく時期ですよね。井上さんは就職しなかったと思いますが、それに対して不安はありましたか?
なかったですね。
学校の教師になるか農業を継ぐかで迷っていました。
どちらにしろ、大学院に行くつもりだったので。
その頃、富士通のような大手企業が農業に参入したんです。
そこで農業の可能性を感じましたし、やっぱり農業をやろうと思いました。
家族から経営の勉強もしておいた方がいいとも言われていたので、農業&経営が学べるところを探していました。
そんな時に、開校まもない日本農業経営大学校を見つけて入学する事を決めました。
ーーオランダに行く時に不安はありましたか?
不安はなかったです!
とにかく楽しみが大きかったのでそれしか頭にありませんでしたね(笑)。
ーーその10年間で出会えて良かった人を教えてください
その間に一緒に働かせてもらった3人の経営者の方達ですね。
このお三方は自分に要素が入っている気がしますね。考え方であったり、仕事に対する向き合い方であったりと。影響は受けたのかなとは思います。
ーー後悔している事はありますか?
ただ、その時々に自分が必要だと思う選択をしてきたので後悔を感じる事はあまりないです。
一つあるとすれば高校卒業後すぐに農業を初めてみたら今の自分とどんな違いがあるかは気になります。
ーーその間に違う事をやろうとは思わなかったですか?
ありましたね(笑)。
学生時代はこのままインターンに行っている会社で就職してもいいかなとも思いましたし、
実際に前職はサラリーマンとして働いていました。
私は野球が好きなんですが、平日は会社に行って働いて休みの日は野球ををする。
そんな生活も悪くありませんでしたし、会社が潰れない限りは給料が毎月貰えるのには魅力を感じました。
ですが、会社員、組織の一員だとできる事とできない事がはっきりしています。
会社の方針が変われば変わるほどできない事が多くなっていくのを感じていました。
そんな中で、自分がやりたい事を実現するために起業を選びました。
何をやって、何をやらないかを全て自分で選ぶ事ができるので。
井上さんの仕事観
ーー今、休みはありますか?
ないですね(笑)。
毎日朝から晩まで仕事しています。
ーー今の仕事は楽しいですか?
ものすごく楽しいです。
仕事もものすごく多いですが、毎日が充実しています。
ーー起業して大変なのはどんな部分ですか?
従業員さんを雇っているのですが、人にお願いするのは思っていたよりも大変でした。
伝え方であったり、仕事の進め方をどこまで決めるのかなど考える事はすごく多いですね。
ーー今までの仕事で挫折した経験を教えてください
前職でイチゴ事業を始めた時に、
自分ではやれると思っていたのですが、事業計画の30%しか収穫する事ができませんでした。
大失敗に終わってしまって。
自分ではもっとできると思っていたのですが、ショックでしたね。
オランダでも結局、作業をやっていただけだったのでマネジメントがうまくできませんでした。
その頃は毎日ネガティブな感情でいっぱいでした(笑)。
ーー会社員時代と変わった事を教えてください
とにかく頭の中は仕事の事でいっぱいですね。
イチゴの事を考えたり、事業の事を考えたり。
他の事を考えている暇がありません。
あとは眠い時に寝れるようになりました(笑)。
会社員時代は仕事中に寝る事はできませんでしたが、
今は眠くなったら10〜15分くらい睡眠をとって効率をあげる事ができます。
これは今だからできる事ですね。
ーー井上さんにとって仕事とは?
「生きがい」…ですかね。
今やっているものが、形になって次の挑戦にトライできるといいなと思います。
ーー井上さんがそんなに働く事ができる原動力は何ですか?
すごく稼ぎたいと思う気持ちもあるし、有名になりたいと思う気持ちもあるし、サービスをたくさんの人に使ってもらいたいと言う気持ちもあるし、井上寅雄農園で働いてくれているスタッフさんのためもあります。
考えてみるとそんな感じですね。
あとは私たちが提供しているサービスを使って、課題を解決できる人がいれば幸せだなと思う事ができます。
若者に向けて
ーー「やりたい事がない」、「何をやったらいいのかわからない」と言う若者にはどんな言葉をかけますか?
まずは、状況をものすごく聞きます。
おそらく、今やっている事でつまらない事は10年後もつまらないと思うんです。
だから、今の環境に不満があるのであれば環境を変えた方がいいと思いますね。
高校生とかであれば、まずはいろいろなところで働いてみてほしいです。
そこで感じ取って、これ楽しいなと思う事があれば突き詰めてみればいいし、合わないなと思うのであればやめればいい。
最初からやりたい事があるってあんまりない気がするんです。
私自身も農業が好きかと言われるとそうでもないですが、やろうって決めたからやっていますし、実家はりんご農家でしたが、私はイチゴをやっています。それは10年間の中でたくさんの事に触れて学んだからわかった事だし、農業を通じたサービスもある。一つの分野から枝分かれしてたくさんの仕事があるし、とにかくいろいろやってみるのが大事かなと思いますね。
期間を決めたりしてね。ダメだったら別の事をやればいいんです。
ーー最後にこの記事の読者に向けて送りたい言葉を教えてください。
「楽」ですね。
若い世代にはとにかく人生を楽しんで欲しいです。
僕も今すごく楽しいので!!
取材/土屋喬椰
井上寅雄農園が提供するサービス
イチゴ狩り
場所:〒385-0022 長野県佐久市岩村田長塚1731-2
最寄り駅:佐久平駅
営業時間:10:00~16:00
定休日:月曜日、水曜日
井上寅雄農園のFacebookはコチラ
今回取材に応じてくれた代表の井上隆太朗さんはとても気さくで明るい人柄です!
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